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投稿日: 2023.11.15 14:29

【ブログ】“純レーサーマシン”の闘いを見よ。全日本ロードJ-GP3考察 ホンダNSF250R編/“ヘンタイ”カメラマン現地情報

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Blog | 【ブログ】“純レーサーマシン”の闘いを見よ。全日本ロードJ-GP3考察 ホンダNSF250R編/“ヘンタイ”カメラマン現地情報

 レース界のマニアック“ヘンタイ”カメラマンこと鈴木紳平氏がお届けする全日本ロードレース選手権ブログ。今回は10月14〜15日に鈴鹿サーキットにて開催された『第55回 MFJグランプリ スーパーバイクレースin鈴鹿』で、鈴木氏がJ-GP3クラスのマシンを深掘り。前編はホンダNSF250R編をお届けします。

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ホンダNSF250R
ホンダNSF250R
モータースポーツを愛する皆様、残すところあと2カ月となっている2023年 秋、いかがお過ごしでしょうか。

今回は皆様に“全日本ロードレース選手権 J-GP3”特集をお届けしたいと思います。全日本ロードレースで唯一の“純レーサーマシン”を使用するカテゴリーであります。“純レーサーマシン”何ていい響きなのでしょうか。今回はその中から気になったマシン・パーツ紹介、ダンロップ・ブリヂストン両ユーザーのインタビュー、高杉奈緒子選手によるKTM解説をお届けしたいと思います。では知れば知るほど沼っていく全日本ロードレース J-GP3ブログ、いってみましょう!

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R
池上聖竜(TN45 with MotoUP Racing)
池上聖竜(TN45 with MotoUP Racing)

全日本ロードレース J-GP3クラスに参戦しているバイクはホンダ(NSF250R)とKTM(RC250R)の2種類。エントリーリストでは『Honda NSF250』という表記もありますが、これは年間エントリーリスト記入の際にRを記入し忘れただけの事のようです。ちなみに、『Honda NSF250RW』となるとMotoGP Moto3クラス用のバイクとなります。全日本においてタイヤはブリヂストン・ダンロップが選択可能になっています。

特別参戦枠からエントリーの池上聖竜選手50号車は数少ないフルノーマル車両の一台。ステップが変更されています。全てのホンダ車がこのNSF250Rをベースとしています。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

ステップが変更されている池上聖竜選手50号車 TN45 with MotoUP RacingのNSF250R。純正マフラーの出口はこの位置にセットされる。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

こちらがノーマル車両のマフラー取り回し。サイレンサーは車体下部にセット。エンジンはインテークマニホールドをシリンダー前側に設置、シリンダーが後ろへ15度傾けられているのが特徴となります。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

ノーマルブレーキはシングルキャリパーのニッシン製4ポット。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

J-GP3車両は純レーサーマシン故にスターターは装着されていません。エンジン始動には外部スターターを使用。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R
ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

HRCによると車両価格は完成車が\1,490,500(税込み)総排気量249.3のエンジン単体は\737,000(税込み)。HRCのサービスショップにオーダーすればだれでも買えるとの事。エンジンに関してはノーメンテナンス年間2基で運用が可能。全日本ロードレース以外にもワンメイクレースも行われておりロードレースの入り口、世界につながるカテゴリーとしてこれからもサポートは継続していきたいとの事だ。

J-GP3のレギュレーションとしてはエンジンを開けての性能アップの為の部品交換、形状変更等によるチューンアップは不可、メンテナンスは可、6速ギアのレシオ変更は可、クラッチの変更は可、スイングアーム・ブレーキキャリパー(種類・数)・ローター、サスペンションユニットの変更は可と改造範囲は幅広い。車重は84Kg、燃料タンクは11リットルとなっている。オプションパーツとしてピットロードスピードリミッター装置が設定される。エンジンは軽量のためエンジン交換の際は2人で手持ちでの交換が可能だ。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

純正スイングアームは鋳物とアルミで構成される。かつてはTSR製のスイングアームも存在したようだが手作りのため生産数が少なかったこと、転倒による破損等により現在では殆ど見る事が出来ず現状ではほぼ純正スイングアームが使用されている。ただ一部のチームではセッティングパーツとしてストックがされているとの事だ(2023シリーズ 第1戦もてぎで25号車 田中風如選手 WJ-FACTORYが使用)。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

一部のチームではリヤサスペンションのストローク量測定のためにストロークセンサーを装備。今年でチーム設立60周年を迎えたホンダ浜松製作所の社内チームが走らせる13号車 ホンダ浜松チーム エスカルゴRTもそのひとつ。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

こちらがそのリヤサスペンションストロークセンサー。通常はサスペンション本体横に取り付けられるが時代とともにサスペンション・スプリングの径が大型化。純正スイングアーム内に収まらずセンサーが追い出された格好でスイングアームへ取り付けられたようだ。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

ではここらは魔改造が施されたNSF250R達を見ていきましょう。まずは徳留真紀選手5号車 MARUMAE MTR NSF250R。フロントブレーキはシングルキャリパーですがブレンボに換装、追加オイルクーラーの設置、マフラーの交換、カウルはドライカーボン製になっています。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

トップブリッジはノーマルのようですが他はほぼ手が入っているといっていい徳留真紀選手のNSF250R。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

こちらはトップブリッジが交換されている5号車 徳留真紀選手のNSF250R。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

4号車彌榮郡選手のMARUMAE with Club PARIS NSF250R。シングルブレーキですがオイルクーラーが追加・マフラー交換等がされています。フレームは2022製と最近のモノになります。全然関係ない話ですが彌榮郡選手の英語表記はGun MIE。GUNゆえにアメリカで走ったら大人気になると思ったのは私だけでしょうか。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

傾けて設置されたオイルクーラーが特徴的です。コア容量は大きく、重い物はなるべく下に、が読み取れます。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

23号車大田隼人選手のMARUMAE DreamKITAKYUSHU CPARISはオイルクーラーが水平にマウントされる。コアサイズは小さめ。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

純正と同じニッシン製でも種類違いの大型化されたフロントブレーキキャリパー。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

13号車ホンダ浜松チームエスカルゴRTはダブルブレーキを選択。キャリパーは極小のブレンボ製に換装。

尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)
尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)

ではここからはホンダ勢を代表して2名のライダーに話を伺います。まずは2023最終戦をランキングトップで迎えたダンロップユーザー1号車P.MU 7C GALESPEEDの尾野弘樹選手です。尾野選手よろしくお願いします!

尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)
尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)
尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)
尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)

1号車尾野選手のJ-GP3の参戦概要について教えてください。

「まずこのチームがダンロップタイヤの開発を担っているため、僕の主な仕事のひとつがダンロップタイヤの開発になります。ですからレースウイークでも決まったタイヤで車体のセットアップをするのではなく、毎セッションスペックが異なるタイヤを履いて走行・評価する作業を行いバイクのセットアップはそれぞれのタイヤのキャラクター・バランスありき、という事になります。木曜日あるいは金曜日から走行しコンディションが変化する中で常にタイヤが変わっていくので決勝までにまとめるのは簡単な作業ではありませんがライディングのキャパを増やして対応しています。大きくキャラクターが異なるタイヤに関しては事前テストで評価しています」

「セットアップに関してはタイムがでるというよりは転倒リスクを減らす方向の割と安全パイな方向のセットアップになります。というのも全日本は全6戦しかなく、チャンピオン獲得という最終目標がある以上、転倒・リタイヤという訳にはいかなく決勝レースでは完全に攻める事が出来ないのです。ですから尾野弘樹の決勝レースは全開ではなく抑えた走りになります。転倒した前戦の岡山では、車両に若干のトラブルを抱えていたにもかかわらず勝ってチャンピオンを決めたいという想いが先行してしまいあのような形になりました。もう頭は切り替わっているので大丈夫です」

ダンロップタイヤについて教えてください。

尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)
尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)

「現在はブリヂストンとの競争ですが、性格としてダンロップはブレーキングから立ち上がりの加速、ブリヂストンはコーナリングに強みがあります。お客様がレースを見ていて、何だ、尾野弘樹はストレートで抜いてばかりじゃないか、と思われるかもしれませんが現状のダンロップではブリヂストンのコーナリング性能には及びません。ですから僕はコーナーでは頑張らずダンロップの強みであるブレーキングと立ち上がりを活かす走り方を心掛けます。またバイクもその特色を活かしたセットアップになっています」

ではそのバイクに関して伺います。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

「バイクのパッケージに関してはチームが最善と考えるパッケージを用意してくれているのでライダーから要望することは殆どありません。現在の状態がホンダNSF250Rとダンロップタイヤ・尾野弘樹とのベストな状態と言えると思います。ただ全く同じスペックでチームメイトの17号車上江洲葵要選手のバイクも造られていますがライディングスタイルも異なるために他のライダーに合うかどうかは難しいところです」

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

「前段に述べたようにダンロップの強みを生かすためブレーキに関しては制動力重視でGALESPEED製のダブルキャリパーとしています。このキャリパーに関してはこれまで開発を進めてきてブレンボ製を凌駕する制動力を発揮してくれています」

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

「カウルに関して、これもダンロップの強みである加速とストレートスピードを活かすという点で大きく横に張り出した形状となっています。シケインでの細かい切り返しなどでは若干扱いにくいところはありますが全体的にプラスになると判断して装着しています」

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

チームメイト 17号車上江洲葵要選手のカウル。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

シンプルなデジタルメーターに換装されている。

お客様へ、俺のバイクのここを見ろ、的な場所はいかがでしょうか。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

「左親指リアブレーキでしょうか。もともとは2021年の菅生テストで転倒し右足が機能しなくなった為に急遽テストしていたものを装着したものです」

尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)
尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)

「右コーナーなどで深くバイクを倒した時などにリアブレーキペダルを十分に機能させられない事もあり、コーナリング中のネガを消すために多用しています。お客様からは見えないとは思いますが(笑)」

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

「GALESPEED製リヤブレーキマスターシリンダーが小さくて軽量なのが特徴です。重量はシングルとほぼ変わりません。皆さんでも購入可能ですので試してみてください」

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

「ライムグリーンの配管が左親指ブレーキのブレーキラインとなります。ラヂエーターのフェアリング、カーボン製のエアインテークも美しく丁寧な仕様になっています。クラッチに関してはスリッパークラッチをテスト中ですが現状ではそれを使い切るパワーまで到達していないので来年以降の課題となります」

エントリーリストを見ると尾野弘樹選手のバイクは2017とあります。これはシャシーが2017年製、ということでしょうか。

ホンダNSF250R
ホンダNSF250R

「その通りです。このシャシーはかつて小室旭選手・成田彬人選手・國峰琢磨選手らがライディングしてきたシャシーになります。年式違いのシャシーもテストしましたがチームがこの2017年仕様のシャシーにこだわります。スペアのシャシーもあるので転倒してシャシー交換したとしても僕的には問題ありません。尾野弘樹的にはどっちでもいいです(笑)」

チームに関してはいかがでしょうか。

尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)
尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)

「所属するP.MU 7C GALESPEEDはチャンピオン獲得を当然の目標としていますが単にレースの勝敗だけでなく各コースで一年前の自分たちを超えるという目標を設定しています。それによってチームもライダーも進化していっています。チームとしてはバイク造りだけでなくライダー育成も目標に掲げているのでそこ含めて歴史と経験があるチームと感じています。僕は海外レース含めて限られた与えられた環境の中でレースを戦ってきたのでそういった経験が活かされて結果に繋がりチームとの信頼関係も出来ているのだと思います」

尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)
尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)
尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)
尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)

皆さままずは尾野弘樹選手のインタビュー、いかがだったでしょうか。驚かされた事は毎セッション異なるタイヤスペックでの走行、バイクに関してのライダーからのリクエストは無い、でした。ひとりでダンロップタイヤの開発を行う尾野選手、この後激戦の決勝レースで3位となり2023年のチャンピオンを獲得する事となります。

ではここからは最終戦をランキング2位で迎えたブリヂストンユーザー 7号車JAPAN POST HondaDream TPの若松怜選手にホンダNSF250R・ブリヂストンタイヤ・ついて伺います。17歳の若松選手、よろしくお願いします!

若松怜(JAPAN POST HondaDream TP)
若松怜(JAPAN POST HondaDream TP)

「昨年までダンロップを履いていましたが今年からブリヂストンに変わっています。自分のライディングがコーナーを立ち上がった時の姿勢が割と寝ている事が多くダンロップだと決勝中にタイヤがタレてしまい勝負しきれない部分がありました。ブリヂストンだと進入スピードが高いまま旋回しても大丈夫なので走り方としてはブリヂストン向きかなと、思っています。性格としてブリヂストンは〇でダンロップがLというイメージです。ブリヂストンはフロント・リヤタイヤともにフラットな使い方がベストでフロントタイヤを軸に曲がって行くイメージです」

若松怜(JAPAN POST HondaDream TP)
若松怜(JAPAN POST HondaDream TP)
尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)
尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)

「バイクに関してはフロントサスペンション・ブレーキの交換をしています。ダブルキャリパーを試してみたいとは思いますが、チームからは現状の仕様で速く走れないとMoto3や世界で通用しないと言われています。それはセッティングやパーツを変更するのではなくライディングを変える事によってタイムをだすということですので、現在は様々なコンディションの中で対応能力を身につける作業をしています」

「小排気量なバイクなので体重・身長の影響は多きいですが身体の使い方が速さにも影響するのでそこも勉強中です。尾野選手はコーナーでの切り返しやライン取りがスムーズで速いので後ろから見ていて勉強になります。ただフリー走行等で後ろにつくと嫌がるので決勝中にしっかり見るようにしています。今後の課題は雨のレースですね。もうテンションが下がって無理です(笑)。来年は雨でもガツガツ行きたいと思うので見ていてください」

若松怜(JAPAN POST HondaDream TP)
若松怜(JAPAN POST HondaDream TP)
徳田翔(TeamKAGAYAMA&Garagef)
徳田翔(TeamKAGAYAMA&Garagef)
保坂洋佑(club Taira Promote)
保坂洋佑(club Taira Promote)
池上聖竜(TN45 with MotoUP Racing)、若松怜(JAPAN POST HondaDream TP)
池上聖竜(TN45 with MotoUP Racing)、若松怜(JAPAN POST HondaDream TP)

皆さま若松怜選手、いかがだったでしょうか。やはりブリヂストン・ダンロップでは性格の違いは顕著なようです。またやはり若者にとっては登竜門のカテゴリー、ライディングの引き出しを増やさなければ速くは走れない、そんなカテゴリー、バイク・タイヤのようです。特別枠では長島哲太監督率いる50号車TN45 with MotoUP Racingからエントリーの14歳池上聖竜選手、加賀山就臣監督率いる51号車TeamKAGAYAMA&Garagefからエントリーの14歳の徳田翔選手、53号車club Taira Promoteからエントリーの17歳保坂洋佑選手がエントリー。

ちょっと小さいですがアグレッシブな走りのホンダに乗る加賀山就臣選手を見る事ができるのもJ-GP3クラスです。ちなみにJ-GP3用ブリヂストンタイヤは2013年以降にアジアで行われたタレントカップでの使用を前提として、ライフが良く、ある程度の性能でタイヤに合わせた走り方が憶えられるような、というドルナからの性能要求により依頼され造られたタイヤとの事。現在もその役目を着実に果たしている事は特筆に値するでしょう。


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